2019.03.27
TALKING ABOUT "SONAR-FIELD" – Crosstalk vol.1-1
坂東祐大(代表)× 稲葉英樹(デザイン)× 前久保諒(制作)
"チームで、楽しく何かを作っていく"
3月30日(土)、31(日)、SHIBAURA HOUSEにて、Ensemble FOVE presents “SONAR-FIELD” 公演を開催します。SHIBAURA HOUSEの2018年度フレンドシップ・プログラムに採択された本公演は、初のオリジナル・プロジェクトとして2018年3月に同会場で開催して以来、約一年ぶりの再演となります。
初演から大胆にパワーアップした本公演のポテンシャルをより多角的に体験してもらうべく、主宰の坂東祐大が、2018年秋の”TRANS”京都公演以来FOVEのグラフィック・デザインに携わる稲葉英樹、制作の前久保諒を交えて、公演のコンセプトにまつわる座談会を行いました。
”SONAR-FIELD”公演のキャラクターだけでなく、Ensemble FOVEというアンサンブルの未来のビジョンにまで話題が及んだ、キーワード多発の濃密なトークをお届けいたします。
(構成:前久保 諒)
“互いのスタイルやテクニックが融合していないと、ある一定以上のものにはならない”
前久保:FOVEをやろうっていうコンセプトはどのくらい温めてたんですか?
稲葉:いつからやり始めるの?
坂東:2016年くらいですかね。もともとCMなどスタジオレコーディングが必要な仕事をするとき、より密に演奏者とコミニュケーションを取れないかと思っていて。いろんな実験とか。
ただ技術的なところでいうと、スタジオではクリック(*カッコッコッコッと鳴るメトロノームのようなもの) と一緒に演奏するっていうのはある種のハードルになる方もいらっしゃるんですね。
クラシックのメソッドからすると非音楽的に捉えられることがすごく多い。
なぜかというと自然なフレージングが制限されるってよく言われるんですけど、僕はそれも使いようで、別のやり方できちんと綿密に準備/計算すれば絶対にできると思っていて。ので最初はそのクリックと一緒に演奏できるか、というのが、ゆるやかな基準というか。
あとは多少俯瞰的に音楽を捉えている音楽家と一緒に何かしたいということもありました。仮にクラシックというフィールドで活動しているとして、なんか物足りないなとか、こういうところおかしいんじゃないか?みたいな問題提起が可能で、「そうだよね」と共感してくれるかどうかが非常に大事だと思ってて。
稲葉:それを「思う」というのは大事だと思うね。
坂東:もちろんそれ以前に楽器の名手というのは大前提なのですが(笑) それを越えてアーティストとして一緒に面白いことができるかどうかっていうのは、FOVEとしていつも重視しているところです。そういうなかで一緒にやってみない?というかんじです。
稲葉:なるほど。そもそも僕と坂東さんとの出会いも、Instagram経由でメッセージをもらって、「あれ、この人全然知らないけれど、話してみると面白いなあ」と思ったっていう始まりでしたね。
そういった出会いと少し似てるけど、音楽に対しての視覚があるならば、チラシやポスター、スリーブ、みたいな枠組みだけではなく、それぞれの表現がひとつの作品で、影響を受け合わないとつまらないと思う。坂東さんの考え方にはそういうものがたくさん含まれていると思います。いつも全く関係ないことばかり話してますね(笑)
坂東:そうですね、全然関係ないことばっかり話してますね。
前久保:この鼎談を始める前もネガティブな話で盛り上がってましたけれど(笑)
稲葉:坂東さんが座った途端にね。
坂東:すみません(笑)
稲葉:でも、この鼎談もそうだけど僕の仕事と坂東さんたちの仕事はどこかちょっと似てると思っていて。坂東さんも自分自身で考えながら段階を踏んでいくじゃない。その一方で社会的な面として制作というのもあって。この異なる二つのギャップは難しい。とは言っても、作品作りばっかりやってても見逃す部分もあってね。
坂東:そうですね。ギャップはやっぱりありますね。そういう意味では最近ギャップに対してポジティブにいくことが増えてきた気がするな。
稲葉:無理にならなくてもいい気がするけど(笑)ただ僕の仕事でも、普段からああだよねこうだよねとか話したり、お互いのスタイルやテクニックが融合していないとある一定以上のものにはならないよね。
坂東:たしかにそうですね。
稲葉:坂東さんと話してるとよく思う。「へえ、作曲家ってそういうところまで気にするものなのか、面白いな」って。ただ今の話を聞いてるとみんながそうじゃないよってことかなあ?
坂東:そうですね。アーティストとしてというか。いわゆる職業としてわりきって活動するスタンスの人と、ちゃんと自分の表現をしたいっていう人と、そのどちらもをバランスよくやっている人と音楽家は分かれている感じがあるんですけど……。
稲葉:壮大(笑) それは良く言われているかもね。でももしかしたら本人たちに尋ねてみたらそうは思ってない可能性もあるし、みんなが個であり何かしらの表現者であるだろうから、今の時代としては選択の自由なのかなあ。
“生でやってるときの情報量が普通のコンサートよりかなり多い”
坂東:前久保くんからみて思うことある?
前久保:どうなんでしょう。たとえば楽器を始めるのは早ければ早い方がいいってよく言いますよね。だからなのかはわからないですが、業界に合わせていく身振りっていうのは、早くから無意識に身についてしまうものなのかもしれません。あるいは最初から業界に照準を合わせて生き方をつくっていくようなかんじ、ですね。
僕はそういった姿勢に対しては若干距離感を感じるほうで、好奇心旺盛にあれもこれも気になるしって感じでゴキゲンにやってたら、思っていたよりも温度差を感じる場面が多かった。
稲葉:なるほど。いま早ければいいっていう話が出たけど、その先の最終的なアウトプットの方法ってあるじゃない? それがどこかのオーケストラでやるとか色々あると思うけれど、違う方法で聴かせる方法もあるはずだし、クラシックとしての完全な文脈じゃないところでも聴かせられる場合ってあると思う。それはつまり、アートやポップミュージックという領域などと近くなってくることだってあるわけだけど。
坂東:そうですね。
稲葉:だとすると、必ずしも早くから楽器を始めなきゃいけないわけではなくなる可能性はあって。たとえば遅くから始めてもテクノロジーでいろんなプログラムを取り入れながら、全く違うアウトプットをするという場合もあるかもしれない。最終的なアウトプットの方法をどう考えるかで、道は違ってきますよね。
前久保:アウトプットの方法が最初から「あのホールでコンサート」みたいに決まり切ってるタイプと、色々好奇心旺盛に「あれとあれ掛け合わせたらどうなるかな」と思いつくタイプとは、だいぶ違ってきますよね。
坂東:僕は後者ですね。
稲葉:そうだよね。
坂東:コンサートは楽しいし、生で聴く体験はもちろん重要だと思うんだけれども、それが全てじゃないよね、という感覚もある。でも一方では生音原理主義みたいな考え方もあって、それが世代的断絶なんなのかわからないんですけど…。
稲葉:やっぱりアウトプットの方法っていうのが、テクノロジーとかメディアが日々変わっていくなかで、制作者にしてみたら、そのメディアありきで、「それで聴かせるつもりで作った」というふうに作らないといけない。僕の仕事の場合は、何の媒体でみんながこれを目にするのかというのがあって、黒はこういう黒にしたほうがいい、解像度はこの辺がいいかもしれない、特性によっては必ずしも高くなくても良いかもしれない、というのはあります。
坂東:柔軟にしていくしかないんですよね。
稲葉:iPodだって以前はなかったけれど、それでしか聴かないっていう人も現れて。それはもうどれがいいとかではない。その上で「聴かせています」ていう方法も存在するので、だからアウトプットがどうなっているかは重要なテーマだと思うね。
坂東:それこそ "SONAR-FIELD" は、意図的に生で体感することが一番完全体というアウトプットを設定して創作してるので、あまり盤や記録媒体にすることに重きを置かず作っています。もちろんあっても楽しいですが(笑)ただ、生でやってるときの情報量が普通のコンサートよりかなり多いので、媒体にすることが必ずしもこの作品にとってプラスに働かない、と思うんです。
稲葉:僕も”SONAR-FIELD”観に行ったけれど、目の前で弾くからね。情報量がすごい。奏者の動きも見て取れるし、通過した後に同じようなことをやっても違うものと受け取れる。
坂東:風景が変わっていきますからね。
稲葉:だからあれはこだわってるアウトプットだなと思いました。
坂東:これが10年後も正しい方法なのかはわからないけれど、いまはまだ新鮮な感じで聴けるかなあと。
”計算とか筋書きが過去や未来に縛られず、今として、楽しく何かを作っていく”
前久保:だけどそれ、一方ですごく計算して考えてないですか。
坂東:してますね(笑) ここのフォーマットに標準を合わせてこうみたいな。けれど「普段やらないことをやる」って大事だと思うんです。僕が普段やっている作曲とFOVEでの作曲って全然違う。FOVEだと普段よりやっていることが多いので、考えないところまで考えてやる。たとえば稲葉さんにアートをお願いしたり、というような。普段考えてないところを拡張してやってみるっていうのは、のちのち自分のストックになるようにも思いますね。「あのときFOVEでやってたことが他の場面で援用できた」っていう場面もあったし、FOVEでやってた蓄積が、他の人たちとのコミュニケーションに生きてるなと思うこともあります。
稲葉:なるほど。
坂東:なにかしら全員がWin-Winのかたちになってほしい、っていう思いはずっとあります。それが普段できないことのクリエーションというか、大きな意味でのクリエーションでそうなればいいな、と。そこからさらに相乗効果が生まれればすごいいいものになるし、ある種の「シーン」みたいになるといいなと思いますね。
前久保:おそらく坂東さんは、公演を一つ打つときに、公演のコンテンツをつくるときの熱量と、公演の運営モデルをつくるときの熱量が同じくらいになっていて、これを両輪で回さなくてはいけない、と思ってるんじゃないですか。
稲葉:それはおもしろいね。たとえばEnsemble FOVEみたいな活動を片手間でやると違ってしまう。でも両方に必要だと考えてやっていると、観ている方も本気になってくれるし、いいことなんじゃないかと思う。
坂東:うーん、ひとつのゆるやかな軸というか……。公演の機会は、別に多くなくてもいいと思うんです。ホーム感というか、「FOVEに戻ってきたな、ここなら自由に遊べるな」っていう感じと、そのあとで別の場所に行くっていうかんじがあるのがいいのかなと。
前久保:どちらかというと、FOVEでやるときは好奇心とか遊び心をできるだけ大事にしてるような感じでしょうか。
稲葉:FOVEのSNSアカウントとかみてると、みんながやってるってことが混合して現れてる感じがして、楽しそうに見えますね。個人の活動の宣伝とか、なぜか僕の仕事まで流れてきたりして(笑) みんなが集まって実験しているのが一つの形としてまとまってる。そこからみえてくるものもあるよね。
坂東:コアの人が広がっていくことが大事だと思うんです。本当に面白がってくれる人たちを増やしたい。
前久保:アンサンブルの組み方もちょっと違いますね。この楽器とこの楽器を集めよう、じゃなくて、この人とこの人誘ってみようっていう方法ですよね。
稲葉:坂東さんの自由度が高いところもあるじゃないですかね。
坂東:どうかなあ。でもお高くとまってもしょうがないとも思いますし(笑)。
前久保:面白いことベース。
稲葉:自分たちも面白いし、聴いてくれる人も面白いっていうのが幸せな関係だろうね。片方だけが楽しいのはよくないし、両方が楽しいことが大事にしてやっていけたらいいんじゃないかな。
みなさんより僕はちょっと年上だったりするんだけど、なにかを継続してやろうといったときに、10年続けれるかな?っていうものが、7年ぐらいでパーンってなくなっちゃうことってあるんですよ。7年周期。
坂東:へえ!
稲葉:メディアが変わってしまったり、みんなの生活様式が変わったり、あとは組織がなくなったり、人事的な問題だったりして笑 なんか「また7年!」って。僕の周りでは起こっていましたね。
前久保:そうなんですか。
稲葉:いまはもっと情報が早いしいろんなサイクルが速くなってきてるから、この周期がもっと縮まってるかもしれないけれど。でもそういうことは起こるんじゃないかな。
坂東:人がいなくなってなくなるってことはすごくリアリティがあると思いますね。
稲葉:人の感覚も変わってきますよね。例えば今前久保さんはこうやって「ですよねー」って話してるけど、いつか「?」ってなり離れる可能性もある。それはでも生物的敵対じゃなくて、感覚はどんどん変わってしまうから。いずれそれがまた交差する可能性は高いし。だからそういう周期はあるんじゃないかな。
坂東:そうかもしれないですね。たしかに。
稲葉:だからこそ、計算とか筋書きが過去や未来に縛られず、今として、楽しく何かを作っていくのは素晴らしいと思うね。
坂東:なんかちょっといい具合に距離を取るのが大事なのかもしれないですね。
前久保:少なくとも「公演決まっちゃったからやるしかない」っていう感じはないと思います。やっていくうちにこの次は物別れになるかもしれないっていう緊張感をもちつつ、結果的に集まるっていう感じで。
(次回につづく)
Ensemble FOVE presents “SONAR-FIELD”
日時:2019年3月30日 (土) 15:30-16:15 (入場時間) / 18:30-19:30 (入場時間)
31日 (日) 14:00- 14:45 (入場時間)/18:00-19:00 (入場時間)
完全予約制:全チケット入場時間指定 (5分刻み、公演時間約60分)
会場:SHIBAURA HOUSE
主催:Ensemble FOVE
料金:前売りのみ 3,500円
チケット:Confettiにて発売中
SHIBAURAHOUSE 2018年度フレンドシップ・プログラム 採択企画